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「患者によし、スタッフによし、コストよし」を実践した病医院づくりの指南書

【Topics】新刊『患者本位で考える 病院・クリニックの設計』
「患者によし、スタッフによし、コストよし」を実践した病医院づくりの指南書

2018年10月12日 12:22

 病医院建築の設計者として45年のキャリアを持つ久保田秀男氏による『患者本位で考える 病院・クリニックの設計』が発刊された。その設計思想は一貫して「患者によし、スタッフによし、コストよし」を目指した病医院づくり。久保田氏が関わった病医院が医療福祉建築賞をはじめ数々の建築賞を受賞していることからも、時代の先を行く病医院づくりを実践してきたことが分かる。未来を見据えた病医院建築の在り方を含め、著者の久保田氏に話を聞いた。

―同書は、以前に発刊された『患者に選ばれる病院づくり』と、そのパート2の『病院の改築と運営改善へのヒント』から十数年ぶりとなる、病医院建築のキャリアの総決算ともいえる著作ですね。

 病院づくりの考え方については、前著の延長線上にありますが、今回は新たにクリニックを含め、前著発刊後に手掛けた事例も多数盛り込みました。それまでに考えていたことを実践し、建築に落とし込んだ事例もありますので、そういう思いもあって、「『患者に選ばれる病院づくり』―その実践」という副題を付けています。実践した工夫の仕方などを、カラー写真や図表を使って分かりやすく紹介していますので、参考にしていただければと思います。

―病医院建築については、まだまだ固定的な考え方が多いと指摘されていますね。

 確かに、アメニティーを充実させるなど、近代的な「病院臭さ」を払拭したデザインの病院は増えましたが、いままで通りの固定的な考え方が多すぎます。

 医療職の人は患者さんのことを分かっていると言いますが、いったん医療職になったら患者さんとは別の世界で、どうしても診てあげている、やってあげているという考えの人がいます。病院建築の費用が高くなるのは当たり前だと思っている人もいます。病院側は、そうした点を払拭し、考えを新たにしてほしいと思います。

 
―当初から「患者によし、スタッフによし、コストよし」の考えに基づいて設計されてきたのでしょうか。

 一貫してそれを目標にしてきました。これら3つの条件は相反するものとして語られることが多いですが、設計者と病院側とで議論を深めていけば、3つを同時に解決する「落としどころ」を発見でき、それができるまで設計は終わりません。そして、それを導き出すことが設計者の仕事だと思っています。

 病院のスタッフと打ち合わせをすると、どうしても「スタッフによし」に偏きがちです。建築は、住宅も病院も使う人にとってどうかを考えるという意味では一緒ですが、病院にはスタッフと患者さん、いろんな人がいます。住宅の場合、住む人と設計を打ち合わせますが、病院の設計を患者さんと打ち合わせることはありません。だから、設計者は患者さんの立場に立って、思いを代弁してあげないといけません。

 また、健全な経営による「継続」こそが、最大の患者サービスであり、それに「建築の力」が大きく関係すると考えています。病院側と設計者が「ないよりはあった方がよい」という考えで進めると、いくらでもコストは上がります。上塗りだけの「患者サービス」を見直さない限り、病院建築はあっという間に「人・物・金食い虫」になります。

 「ないよりはあった方がよい」という足し算の考え方でなく、施設の有効利用を図る「FM(ファシリティマネジメント)」と、病医院設計に適用する「EBD(根拠に基づく設計)」による検討のプロセスを経ることによって、そして真に患者の求めることは何かを見極めることで、経済的で合理的な病医院づくりができます。必要だからと言ってどんどん盛り込むのではなく「引き算をすること」「やめることの勇気」も持ってもらいたいと思います。
 


病医院建築にかける思いを語る久保田秀男氏

―病院建築は、将来の変化にも対応することが求められると指摘しておられますね。

 建築の寿命は長いので、病院も他の建物と同様、20年先、30年先、いやもっと先まで使えることを考えて建てないといけません。ところが、病院側との打ち合わせでは、最初は将来のことも議論しているのですが、いざ設計が始まったら、今の使い方でどう使えるかという話に終始しがちです。

 でも考えてみてください。今完成したばかりの病院でも、大きな病院では設計当時から考えると5、6年前の考え方でつくられているのです。できた時に時代に追い付いているのか、そして将来の変化にも対応することができるか、そういうことを考えて設計していく必要があります。

 医療環境の変化で、将来何が起こるか分かりませんが、改修しながら、変化に対応して建築の寿命をまっとうできるような設計をしなければなりません。フレキシブルに対応できる「何とでもなる建築」がこれからの病院建築の目標です。そのことについては、「貸しビル」を例にして解説しました。一方で、今の病院は「もう病院は大きくならないよ」と言って、増築を考えていない所が多いのですが、前を向いている元気な病院は、関連施設を含めて大きくなっています。そのことも視野に入れておいてほしいと思います。

―これから病医院の新築・改築を考えている医療関係者に、同書をどのように活用してもらいたいとお考えですか。

 いろんな実践例とその考え方を参考にしてほしいと思いますが、一番読んでほしいのは「設計者選び」です。患者さんが医師を選ぶのと同じように、病院建築では設計者選びが重要になります。公的病院の場合はプロポーザルやコンペで設計者を選ぶことが多く、民間でも同様なプロセスを踏む所がありますが、短時間のヒアリングだけでは、設計者の顔は十分見えません。提案書だって、その人が書いたものか分かりません。やはりパートナーを選ぶのですから、その設計者が設計したというものを実際に見に行って、実際に設計したのか、対応はどうだったのか、などを十分調べるべきだと思います。

 そして、いったん設計者を決めた場合でも、もしも設計者との信頼関係が築けないのなら、途中でも、設計者を変える勇気を持ってほしいと思います。建築は、数年後だけでなく30年先、50年先の姿を設計することで、その成否は両者の信頼関係の有無にかかっています。信頼関係が構築できないなら、決して良い結果は生まれません。そのことを心して、病院建築に取り組んでほしいと思います。
 


【書籍データ】
患者本位で考える 病院・クリニックの設計
「患者に選ばれる病院づくり」―その実践

著:久保田 秀男

A5判,2018年8月発行,316ページ,4,104円(税込み)

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